藍間

Open App

 空耳だってみんなは言うけれど、絶対に違う。
 私の耳は、異世界の音を拾うんだ。たとえばそれば歌であったり、誰かの叫びだったり。ここではないどこかで誰かの奏でた音が、私にははっきりと聞こえる。
 今日は子守唄。どこかの優しいお母さんが子どもに聞かせている、穏やかで温かな音色。ついつい私も微睡みそうになって慌てる。吊り革に捕まる手から力が抜けそうになる。
 昨日は寂しそうな独り言だったから、私も悲しい気持ちになった。一人で泣きそうになって、必死に涙を堪えていた。それと比べれば今日はいい日だ。
 毎日毎日、特に帰りの電車では、一番はっこり聞こえる。もしかしたらこの電車はどこかで異世界に繋がっているのかもしれない。なんて考えて、退屈な毎日の彩りにしてみる。
 ねえ、もし今日このまま寝過ごしたら、私をどこかへ連れて行ってくれる?
 私は天井へとちらと視線をくれて、そう心の中で囁いてみた。
 もちろん誰も何も答えてはくれないけれど、その代わりと言わんばかりに子守唄が大きくなる。満足した私は目を閉じて、規則的な揺れへと身を任せた。

4/16/2023, 10:32:37 AM