ステージの光が強すぎて、彼女の顔は映らなかった。 ファインダーには、輪郭と影だけ、それでいいと俺は思った。 歌姫は光の中にいて、俺はカメラの後ろにいる。 その距離が、ちょうどよかった。 ライブが終わったあと、彼女は非常口の前に立っていた。 夕日が背中から差して、やっぱり逆光だった。
「ねえ」
声だけが、はっきり届く。
「正面から撮らないよね」
「どうして?」
少し間があって、彼女は言った。
「顔、見えないほうが安心するから」
その理由は聞かなかった。 次の撮影は、昼の屋上だった。 影は短く、光は逃げ場がない。
俺はカメラを下ろした。
「今日は、撮らない」
彼女は驚いて、それから笑った。
初めて、ちゃんと顔が見えた気がした
完成した映像の最後は、逆光のステージ。
スピーカー越しに拍手だけ残る。
顔は、最後まで映らない。
それでいい。 彼女は光の中にいて、俺はまだその輪郭を見てる。
「逆光」
1/24/2026, 3:07:22 PM