【失われた響き】
声/反響/消失/失踪/暗闇/ホラー/一本道/怪異/読めない文字/心臓/ピアノ/楽器/動物
ふと、喪失感を覚えることがある。デジャビュのような、それとは全く逆の現象__ジャメビュと呼ぶらしい__が度々起こる。
間違いなく見たことある光景。学校に通っているのだから、通学路なんて見慣れている。あの時代遅れな駄菓子屋も、取り残されたような電柱も、きっちり12時をさして止まった公園の時計も。何もかもが、初めて見るように感じる。
こう何回も同じような感覚を得ていると、本当に経験したことがないのではないか、とか。後付けの記憶なのではないか。とか。そんな変な考えばかりが浮かぶ。
そんなのはただの錯覚だ。それをバカ真面目に信じるようじゃあ、今何をしているのか分からなくなる。迷信をそのまま信じるようじゃあ、義務教育の名が廃る。
分かっているけれど。この感覚に嘘を付いても許されるんだろうか。
誰かに相談するのも気恥ずかしいし、最近はこんなことを悶々と考えている。
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「よっ、南川。今日も浮かない顔だな」
「いつものことだろ」
思わずため息が出る。乱雑に組まされた肩を無理やり引っ剥がす。佐伯はいつもこんな調子だ。
ありがたいことではある。いくら気が沈んでいても、明るく声をかけられると、悩んでいることさえ馬鹿馬鹿しくなる。
それに、学校では唯一の友人だ。そういう意味でも、佐伯は異常者だ。クラスで浮いている俺に話しかけるなんて、普通じゃないからな。
「そういや、今週コンサートだっけ?チケットまだ貰ってないけど、出るんだろ?」
「来るつもりかよ」
「そりゃあ行くだろ、なんてたって親友の大舞台だからな」
佐伯は目玉を大きく開いた。そこまで驚くことかよ。行かないと言う選択肢を元から持っていないらしい。実際、佐伯にチケットを配ると絶対に来る。その後、LINEで必ず感想をくれる。律儀というか、堅苦しいというか。
「そんな大舞台でもないし、わざわざ来なくたって良いよ。チケットも初めからないし」
「そっか。ま、頑張れよ」
そう言って、佐伯は強く背中を叩いて、彼女の元に走って行った。
その後ろ姿に、ほんの少し羨ましいものを感じる。多分、唯一の理解者というものを人は無意識に求めるんだろう。そういう意味では、俺は。
「俺は誰にも理解されないんだよな……?」
当然の結論に、なぜか疑問が浮かぶ。
俺には彼女はいない。こんな捻くれた奴を好きになってくれるような物好きはそういない。高校で1人いれば良い方だろう。そして、その枠を佐伯が埋めてしまったのだから、もう望みはない。
だというのに、寂しさでもなく、喪失を覚えるのはなぜなのだろうか。
のっぺりと続く廊下がやけに長く感じた。
主人公(南川)には彼女がいます。いました。しかし存在が消えてしまいました。主人公は彼女と過ごした日常と、1人で過ごす日常の差を無意識に感じ、それがジャメビュとなり主人公を揺さぶります。主人公と彼女は同じ音楽教室に通っており、彼女の方が上手く、主人公は彼女を目標にしていました。ここから教室の描写、目標が消え、思うように手がつかない主人公。それを佐伯から指摘され、何かが足りないことを察するも思い出せない主人公を描くつもりでしたが、体力切れのため断念。
11/30/2025, 6:40:39 AM