しじま

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 テーブルの上の薄っぺらい紙切れ一枚。
「さよなら」という一言だけ、はしり書きされていた。
 もう何もやる気がおきなくて、僕はスーツのままベッドに突っ伏した。

 あと数日で地球に巨大な隕石が衝突する、というありきたりなハリウッド映画のような展開を前に、世界は既に崩壊していた。

 ライフラインは止まり、法も秩序も無くなり、人々は獣のように振る舞っている。

 あちこちから火の手が上がるが消防車は来ない、僅かな飲水を奪い合い、殴り殺された年寄りや女子供の死骸が道に転がり、それを捨てられたペットが貪っていた。

 助けを求める声に応える者は無く、悲鳴のような鳴き声が街に響くだけだった。

 食料が無くなり、飢えた者が死体から肉を切り取って、そのまま食べる。うまそうに。

 死体から滲み出た黒い液体を啜り喉を潤す者もいた。

地獄だ、この世は地獄だ、早く終わってくれ。

 やがて、みんな、餓死した。

地球に直撃するといわれていた隕石は、いつまで経っても降ってはこなかった。

誤解だったと気付いた時には、既に手遅れだった。

 人類は絶滅した。

たった一人の食べこぼしによって。

テーマ「世界の終わりに君と」

6/7/2023, 5:23:56 PM