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お祭り


夏は、嫌いだ。
額を伝う汗も、耳障りな蝉の鳴き声も、汗ではりつくTシャツも。不快で、暑苦しくて、それでいてどこか背筋が凍るような、そんな季節が嫌いだった。
それなのに、他のみんなは楽しそうに夏を満喫している。海にプール、お祭りだってそうだ。
家族に連れられて行ったお祭りは人混みがすごくて、すぐはぐれてしまった。キョロキョロと辺りを見回して探すが、人が邪魔で見当たらなかった。
ふと、視線を感じてそちらを向けば、そこには女の子が立っていた。夏らしい海を思わせるような浴衣に、キツネのような、ネコのようなお面をつけた十歳くらいの背の低い女の子。
お面のくりぬかれたその穴からは、視線を感じるのに、瞳が見えなくてゾッとした。その向こう側に闇が広がっているようなそれに、嫌な汗が背中を伝う。
リィン、と鈴の音がどこかで鳴って、その子は人混みの中へと消えていく。
ああ、だから夏は嫌いだ。

7/28/2023, 2:09:17 PM