無名庵

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おもてなし

 友人をディナーに誘った。ジャンクフードを好む友人の舌に繊細な味付けした料理が運ばれる瞬間を一目見たい。あの生気を持たない目がこの料理の数々を視界に入れたらどんな色をするのだろう。そんな下心で私は鼻歌でも歌い出しそうな気分で、ディナーの準備をした。
 約束の五分程前、やはり呼び鈴が鳴った。平静を装い出ると、やはり彼の姿があった。
「すみません、少し早かったですか?」
「いいや、とんでもない。早く中に入ろう。外は冷える」
 彼はとぼとぼ私の後に続いて部屋へと入っていった。その姿はまるで子犬を思い出させる。構いたくなるのを堪えて席に案内する。
「もう少しで出来るから、少し待っていてくれ」
彼が小さく頷いたのを見て、私はキッチンへと戻る。そして本日のメインディッシュに仕上げを施した。
 料理を見た彼の目は困惑に満ちていた。無理もない。普段食べ慣れない料理ばかりだからだろう。だが、これから慣らしていくのもまた一つの楽しみといったところだろう。
「こういった堅苦しそうな、食事は苦手なんだ」
「無理にとは言わないが、そのうち慣れるものさ。それに堅苦しくする必要はないよ」
 彼がメインディッシュのステーキに手をつけたのを私は注意深く観察した。彼は存外美味しいといった表情で次々に肉を口へと運んでいった。私はいつでもこの記憶を脳内で再生できるように、この様子を完璧に記憶した。
「美味しいですね、これ。何の肉ですか」
「君の知り合いでないことは確かだ」
「?確かに豚にも牛にも知り合いは居ないけど…」
 迷える子羊に牙を突きつける狼など、この世に要らないのだ。私はこの無礼なステーキを一口サイズに切り口へと運んだ。


二次創作 ハンニバル

10/28/2025, 2:54:00 PM