「ミサキさんって優しいですね」
隣に座っている彼がそう言ってくれた。そうかな、と私は彼から顔を逸らして作業を進める。
「えぇ、とっても。俺が分からないことは丁寧に教えてくれるし、何回聞いても怒らないじゃないっすか。まじ、頼れる先輩っす」
彼の言葉をタイプ音で必死にかき消そうとする。
違う、私は……私は、そんなに清らかな人間ではない。
罪悪感に押し潰されそうになりながら、それでも私はここから逃げ出すことができなかった。このまま、ずっと「優しい人」でありたいと思ってしまった。
彼には、気づかないでいてほしい。優しさの裏地は、とんでもなく汚れ切っているということに。
私は、聖人ではないのだ。
しかし、悟られるわけにはいかないのだ。
私は化けの皮をめくられないよう、笑顔を取り繕う。胸の内で昂る野性を押し殺して、彼と二人きりのオフィスで残りの仕事を片付ける。
1/28/2024, 7:48:24 AM