安達 リョウ

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赤い糸(繋いだ小指)


「ねえねえ、来世わたしと一緒にいない?」

空の上で転生の順番待ちをしていると、後ろに並んでいた性別のまだ定まっていない、魂の器に声をかけられた。
「一緒にいるってどういう意味で? 兄弟姉妹? 恋人とか夫婦?」 
一緒にいるという表現だと、そんな関係が妥当だろう。
友人や幼馴染みも枠を広げれば、その範疇に入るかもしれないが。

「血の繋がりより、お互い他人で出会う方が面白そうじゃない?」
「まあね。でも君と僕には前世何の接点もなかったよね? 神様が許してくれるかな」

来世を決定するに当たって、神様は前世での行いや人間関係、性格などを重視する。
加えて何らかの接点がある者同士、無条件で傍に転生させることが多く見受けられた。

その魂はじゃあお願いしてみる、と順番が近くなるとふわふわと神様の方へ寄って行き、何か交渉している身振り手振りを暫くしていたが―――程なくして戻って来ると、落胆したように俯いたまま元気がなくなっていた。

「ダメって。そういうお願い叶えてたら、きりが無いからって」
………まあそりゃそうか。
「残念だね」
「うん。残念すぎる」
今にも泣き出しそうなその声に、何とはなしに同情心が湧く。

前世で寂しい人生を歩んだのか、酷い仕打ちでも受けたのか………。

―――その時ふと、自分の小指に巻かれた赤い糸の存在を思い出した。
ここへの道すがら案内役の天使が何の気紛れか、自分の小指にそれを結んで悪戯っぽく笑ったのだ。

『あなた前世不遇だったのをよく頑張ったから、これをあげる。誰か気に入った子の指に端を結んであげるといいわ』

その子とずっと仲良くいれるおまじない。
神様には内緒よ?

………。
もうすぐ順番だ。
僕は咄嗟にその魂の子の手を取ると、まだ半透明のその指に糸の端を結んでやった。
「これ、なに?」
「僕もよくわからない。でも繋いでいれば、次会えそうな気がしない?」

そう言うと微かに頷いて微笑んだので、少しは役に立てたかと何となく安堵した。
そうして魂の子は転生の滑り台に乗り、一気に下って見えなくなっていった。
暫くして自分もそれに乗る。

赤い糸は最初短かったが、切れずに伸びてどんどん細くなり、もう目視では確認できない。
でも結んでいる感触はそこに確かにあると確信する。

―――会えたらいいな。
いやきっと、会えるはず。

転生先で楽しみができたと、その糸を辿る期待に胸を膨らませながら―――自分も勢いをつけ、希望に満ちた滑り台を滑り降りた。


END.

7/1/2024, 5:55:52 AM