「アキさん」
不器用な人だ。
「アキさーん??」
適当なひと。
「こっちはだいぶ片付きましたけど、そろそろ休憩に、、、アキさん……」
朗らかな陽だまりの中、探してた人はソファで気持ちよさそうに寝こけていた。
書斎が片付かないと泣きついて来たのはどこの誰か。
第一いくら年下の昔馴染みとはいえ、部屋で男と2人の時くらい気をしっかり持ってもらいたいものだ。
こっちはもう大学にも入学した大人の男だ。
…そう。
ちょっとくらい、
男として認識してくれてもいい。
はず。。
開いていた窓から心地の良い風が吹き、桜の花びらがひらりとアキさんの髪にのる。髪は女の命とも言うが、いつも適当なアキさんの髪はぴょこぴょことはねている。
「せっかく綺麗な髪なのに、後で櫛で梳かすように言わないとな」
花びらを取り、はねた髪を撫でるように軽く触れると、撫でた先でまた髪がぴょこりとはねる。
それがなんだか可愛くて、少し長めの黒髪をまた撫でた。
「んん….」
「っ!」
「………」
「………」
やばい。
そろそろ起きそう。
っていうか!
寝てる女性に対して勝手に髪触るとか俺気持ち悪すぎる!!そもそも気持ちすら伝えてもないのに!!
途端我に返り、自分がやった行動に嫌悪感やら罪悪感やらがふつふつとわいてくる。
…お詫びに珈琲でも入れてこよう……。
アキさんを起こさないよう静かに後ずさり、書斎を出た。
━━━━━━━
きっかけはなんだっただろうか。
確か引っ越してきたばかりで迷子になり。道の端っこでうずくまって泣いていたんだったか。子供が苦手なくせに見過ごすこともできずに、声をかけたのが始まりだった気がする。
あの時大泣きしてたガキンチョが、今や大学生。
時が流れるのが早すぎやしないかね。
十も歳が離れている男の子は隠せてもいない甘酸っぱい感情を、私に抱いているようだ。
暖かな日差しと心地よい風の中、先程触れられていたであろう髪を撫でた。
「………まだまだガキンチョだね」
とはいえ、私もまだ捨てたもんじゃないな。とひとりつぶやく。
廊下の向こうからこちらに向かってくる足音と近ずいてくる珈琲の香りが鼻をかすめた。
いつの間にか、自らの心にも小さく灯っているこの陽だまりのような感情を、見つからないように両の手のひらでそっと包み込んだ。
5/23/2025, 4:25:38 PM