空白む雨

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 花屍は言葉を発するのが難しい。
 身体の問題というより、精神の問題だろう。
 過去の辛い出来事から、途切れ途切れの言の葉を紡ぐのが精一杯だ。
 周りの人間は大概が眉を潜め、咎めることも多い。
「この子は、まともに話すのが出来ないのか」
「もっとスパスパ話しなさい。男として恥ずかしい」
 彼らは時に善意を、悪意を持って花屍に浴びせる。
 彼は必死に迷惑をかけぬようにとこころがけている。だが、周りは傷など忘れて大人になりなさい。皆のように成長なさいと諭す。
 
 傷つける側は正義というある種の毒薬を浴びせる。
 花屍にとって言葉を紡ぐのはもはや拷問に等しい行為と成り果て手しまった。

 花屍の異変にいち早く気づいたのは従者だった。
 彼が言葉をひと言も紡ぐことなく、一日を過ごす日々が増えつつあったからだ。
 何があったのかを聞いても最初は答えることはなく、従者の問いに曖昧な微笑みをするだけだった。
 当然だ。
 自分の話し方に従者にあの表情されるのは恐怖以外にない。
 従者も一度は聞くのを諦めた。少し観察すれば、花屍の異変の理由に気づく。
 だからか、側によくいるようになった。
 すぐに気づくように。
 
 それと主である花屍に惚れているのだから。
 少しでもその声が聞きたい。

3/30/2026, 11:39:10 AM