【あなたに届けたい】
「モクレンの花は、地球上最古の花木って言われているんだって。1億年以上も前から、どんなときでも上を向いて咲いてるのってすごくない?」
去年、満開の紫木蓮を見ながら彼女はそう言って眩しいほどの笑顔を見せた。1億年の歴史の中でどれほど辛く悲しい出来事が起こっても、空を見上げるように咲くモクレンの花に、彼女は自分の姿を重ね合わせていたのかもしれない。
あの日からもうすぐ1年が経つ。
最期の日を迎えるそのときまで、彼女は常に笑顔だった。激しい痛みも耐え難い苦しみもあったはずなのに、一切それを見せなかった。その姿は、あの日彼女が見ていたモクレンの花そのものだった。
彼女が好きだった曲がラジオで流れた。
「この曲がきっかけで、モクレンの花に詳しくなったのよ」と教えてくれたあの曲。僕は、彼女が旅立ってから初めて泣いた。曲が終わってもなお、涙が止まらなかった。
僕は、彼女と過ごした日々の記憶を少しずつ書きおこしはじめた。モクレンのように生きた彼女のことが、いつか誰かの心に届いて花開くことを願って…僕は今、涙の向こう側に歩みを進めている。
1/31/2024, 9:53:56 AM