【それでいい】
放課後の中庭。
真ん中に鎮座する大きな木の下にあるベンチで、読みかけの本を開く。
入学して以来、図書室ですら得られない孤独で要られるこの場所が、私のお気に入りだ。雨が降らない限りは、ここで本を読む。校舎と木の陰に隠れて涼しく、静かでいられる。
今日も一人、ここへ来ては、本を読む。
私の神聖なルーティーンだ。
しかし、今日はどうにも集中できない。
何か、妙な視線を感じてしまう。
教室や電車でも普通に本は読めるし、本の世界に降りる私が誰かからの視線を受けることも珍しくはない。
ないのに、だ。
何故か、集中できない。
視線、というより。
私の他に“何かがいる”ような、落ち着かなさ。
こんな場所に、誰かいるはずがない。
「いるんでしょ。出てきなさい」
人気のない静かな中庭に、私の声が木霊する。
静寂。
(気のせいだった…?)
仕方なく再び本を開こうとする。
が、
「えへへ、バレちゃった」
声が降りてきた。
顔を上げると彼女が枝に座り、私を見下ろしていた。
スカートから覗く白に気付き、私は慌てて目を逸らす。
「落ちても助けないわよ」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
ニコニコ笑顔で彼女は飛び降りる。
猫のように、綺麗な着地。
この高さから降りるのが、怖くはないのだろうか。
「つかまえたー」
そんな私の心配を知って知らずか、彼女は私を抱きしめる。
「ちょっと、やめてって…」
振り払おうとした私の横目に映る彼女は、穏やかな顔だった。
今日もまた、満足に本が読めない。
それでもいいか、と彼女の小さな背中を、片腕で包み込むのだった。
4/4/2026, 12:38:12 PM