冬眠

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「heart to heart」

 土曜日の夜に頼んだそれは、翌日の夕方前に届いた。
 最短当日とうたっていただけある。酒に酔った勢いで注文したため届いた時は間違いではないかと驚いたが、彼にフラれてやけくそになっていた事実は変わらないので、私が頼んだので間違いないと思った。

 ダンボールに貼られたガムテープにカッターナイフを沿わせて、ずぶりと刺さった刃を滑らせる。小気味良い音と感触が腕に伝わる。

 タオルに包まれたそれに、案外梱包は緩いのだと思った。てっきりもっと頑丈に、過剰包装ともとれるような形になっているかと想像していたが、タオルを外した先にそれはあった。

 卵焼きを斜めに切って、片方をひっくり返して切り口を合わせるとハートになる──、彼のために作ったお弁当を思い出した。そんな形をした、赤いハートが入っていた。つるつるとしていてプラスチックみたい。人差し指の第二関節で叩くと、中身の詰まっていないような軽い音がした。

 傷ついた気持ち、悲しい気持ち、辛い気持ち、全部うつしましょう。

 そんなキャッチコピーで販売されていた『気持ちをうつすハート』に、彼にフラれた気持ちを押し付けようと、彼との思い出をよみがえらせる。思い出すだけで鼻先がじんわりと痛くなって、視界が滲む。目元が熱くなって、心がじくじくと痛む。

 えっと、ああ、彼との思い出をうつさないと、忘れられないのに。思い出すだけで体が軋むからうつすことができなさそうだ。また日を改めて、うつしていくことにする。

2/6/2025, 2:50:28 AM