[溢れる気持ち]2023/02/05
きーん、きーん、きーん
小刻みにリズムよく聞こえてくる音。この音が聞こえると、私はどうしても音のする方に視線を向けてしまう。
「ラストォォ!!」
力強い声がグラウンドから遠く離れた私にも聞こえた。
「おつかれー」
笑いながらバッティングを終えた部活の同級生にスポーツドリンクを手渡す彼。
「あー!疲れた!!」
「お前今日めっちゃはずしたな」
笑いながら仲間を揶揄っている笑顔が、私には眩しく感じられる。
「うるせーわ!マジで100本はきついって!!てか次お前だろ!!」
そう言って彼らは位置を交代する。
「全部打ち返してやるよ!」
そう意気込んだ彼が、まだ幼い少年のようで、少し可愛いと思ってしって、自分で照れているのが、手をかけているフェンスの冷たさからより一層感じられる。
「いくぞー。1!2!3!」
彼が球を打ち返すたびに、きーんという金属音が鳴り響き、それに伴って私の鼓動も大きくなる。
どんどん、ネットの中に打ったボールが溜まっていく。
「98、99、100!」
打ち切った彼はそのまま大の字になって地面に倒れ込む。
「やっぱすげーわお前。また新記録じゃん。」
「もっといけると思ったんだけどなぁ!」
彼は悔しそうにしつつも、やり切ったというなんとも爽やかな顔をしている。
彼は立ち上がってバットを持ち、素振りをする。
「なんでそんなに頑張れるんだよ?」
不思議そうに尋ねる同級生。その質問に彼はにかっと少年のように笑った。
「だって、ぜってー甲子園行きたいしな!」
大きく素振りをする。その勢いが、なぜか遠くにいる私の心にまで届いた気がした。
─── もう、だめかも。
「俺らの高校、弱小だぞ」
「でもいいじゃん」
─── もう、抑えられない
仲間が近くに落ちているボールを見つけ、素振りをしている彼に向かって投げる。
溢れちゃうよ、この気持ち。
きーん。
彼の打ったボールがバッティング用ネットの中に吸い込まれる。
彼が打ったたくさんのボールが、ネットから溢れ出していた。
2/5/2024, 10:51:55 AM