秋埜

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 夜の片隅にいる。
 夜風が時折カーテンを翻し、遠く世界の中心で炸裂する光を見せた。たまにずうんと低い衝撃が伝わって部屋がわずかに揺れる。
 何度目かの揺れの後、あなたは俺に聞こえるように溜め息を吐き、読み差しのエリスンの短編集をベッドサイドに置いた。俺を招く指は細く長く、麗しい。また光が閃いて、あなたの不機嫌な顔を一瞬照らし出した。
 連中のことは仕方ない、ああすることが正しい表明の仕方だと思っているし、表明しなくてはいけないものだと頑なに思いこんでいる。秘める想いの美しさなど知る由もなく。
 俺は俺を招く手に誘われて、あなたに寄り添う。夜の一部を切り取ったようなあなたの髪を指で梳き、そっと頬を寄せる。身の内から狂おしくこみ上げる叫びは、夜気をかすかにふるわす囁きに変える。それは、夜という頁に記された一篇の詩だ。
 俺の首に腕を回したあなたの囁きが、俺の耳を濡らす。俺は武骨な手で精一杯に優しくあなたを奏で、あなたの唇は俺の指に応えて妙なる音を夜の中に紡ぐだろう。
 光も振動も、もはや夜を妨げない。お前たちはせいぜい世界の中心で叫び続けるがいい、その愚かしさに世界が堪えきれなくなって崩れ落ちてしまうまで。
 すべてが失くなった跡に、ただこの夜だけが在るだろう。


(書くまでもないこととは思いますが、“あなた”が読んでいた本はハーラン・エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』です)

5/12/2023, 7:47:33 AM