piyo

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今日は私の誕生日だ。
本当は彼が祝ってくれるはずなのだが、何だか気配が感じられない。
私の彼が少し忘れっぽくて、おっちょこちょい。でも、私は彼のそんなところに惹かれたのだ。
だが、流石に私の誕生日を忘れるのは些か酷いのではないだろうか。
私は彼を見つけるために、彼の部屋を訪ねた。何だか違和感を覚えたが、気にしない。
コンコン、と木の音がする。だが彼は出てこない。

勝手に入ることに申し訳なさがあるが、仕方がない。ドアを開けて部屋を見渡すが、彼はいなかった。

リビングにも風呂場にもトイレもいない。何故か、少し体が動かしにくい。

流石に焦りを覚えてきたころ、玄関の棚に写真が飾ってあった。見覚えのない、古い額縁。
辺りを見渡してみるが、やはり先程彼の部屋を訪ねた時のように、違和感が拭えない。そして気づく。

古い。

記憶よりも家が古く、心做しか人の温もりが感じられない。
ふとさっきの写真に目を向け、じっと目を凝らす。目が見えにくい。

写真には、二人の老夫婦がいた。

思い出した。思い出してしまった。
彼はもう居ない。私よりも先にいってしまった。
ああ、思い出さなければよかった。ずっと若い自分のままでいたかった。

時計の針なんて、なければ良かった。


#0107 時計の針

2/7/2026, 5:28:39 AM