はた織

Open App

 北方の海に泳ぐ黄金の髪の人魚と
 南方の海に飛ぶ銀色の翼の鴎の血やたましいが、
 さらさらと私の中に流れていたら良いのに、
 子どもの自傷と自慰と自殺未遂を
 見なかったことにした軟弱な父親と
 子どもの自律と自制と自信を
 奪って支配する魔女のような母親の血が、
 この肉の中にドロドロとまとわりついている。
 しかも、頭の乏しい死に損ないと
 頭だけ賢い引きこもりの豚児らの
 遺伝子までも受け継いでいる。
 あらゆる毛穴からブヒブヒと醜く鳴いているぞ。
 どうせ私も欠陥品だ。
 父親が正常な胤があるかどうか確認したくて、
 母親を利用して検便よろしく私を作ったのだ。
 だが、私はとんだ鬼子だった。
 金稼ぎが下手くそな癖に金のかかる我が儘ぶり。
 ひとりになりたいと言いながら、
 家からも離れず、親の脛をかじるお姫さまだ。
 なんと酷い欠陥品だ、
 私も豚児と呼ばれるにふさわしい。
 こんなにも醜く粘りつく血が流れているなら、
 私なんか生まれてこなければ良かったと、思った。
 思ったが、ふと首を傾げた。
 こんなにもどろりと汚い血を持ちながら、
 何故親どもは、私のように、
 自分さえ生まれて来なければ良かった、と
 立ち止まって考えなかったのか。
 彼らがそう思い止まっていたら、
 醜い豚児はこの世に存在しなかっただろう。
 鬼子に生まれ堕ちた私も生まれることはなかった。
 何故と問うても、結局すべて塵芥に帰するのだ。
 馬鹿だろうが、
 屑だろうが、
 大人になれなかった子どもだろうが、
 どうせ骨になって、堕ちて割れて崩れて、
 さらさらと消えていく。
 白い浮雲のように、千切れ千切れに、
 雲の影を映す海の中に溶けていくだけだ。
                 (250528 さらさら)

5/28/2025, 1:06:47 PM