『君からのLINE』
それは、突然のことだった。
「明日、会えませんか。」
スマホの画面に表示された一文。送り主の桐谷という名前にも、覚えはなかった。どう返していいか分からなくて、結局何もしないまま画面を消した。
けれど、どうしてもそのLINEが気になって、一日中上の空だった。友達に相当心配されながらも、気づけば日が沈んでいた。
ずっと考えていたことがある。
いつの頃からか、なんの脈絡もなく自分の中に現れた記憶。
自分が通っていた学校の屋上。
放課後。毎日4時に流れる下校の音楽。
それに紛れるようにして聞こえた、「消えたい。」と、囁くような声。
ずっと忘れることのできない君の声。
でも、僕は君のことを知らない。
このLINEは、君なのではないかと思った。
意を決して、返信する。
「いいですよ。」
たった一文。返事はすぐに来た。
「よかったです。じゃあ、明日の午後でいいですか?4時ぐらいになると思います。」
身体が強ばる。4時。放課後。下校の放送。
「大丈夫です。どこで待ち合わせますか?」
指定された場所は、期待した場所とは違っていた。
「楓先輩。すみません。遅くなって。」
後ろから声をかけられて、振り向く。待ち合わせ場所に来たのは、仲の良い後輩だった。
「なんだ。夕樹か。」
「なんだとはなんですか。頑張って走ってきたのに。」
「あぁ、はいはい。よく頑張りました。そういやお前の苗字、桐谷って言うんだな。」
「そうですけど、もしかして今気づいたんですか。なんだか返信が律儀だなとは思いましたけど。」
強ばっていた身体から力が抜けて、大きなため息が出た。
この間スマホを買い替えて、引き継ぎが上手くいかなかったからもう一度繋ぎ直したのを思い出した。普段から夕樹と呼んでいるのもあって、桐谷という名前とすぐに結びつかなかったのだ。
君は誰なのか。この記憶は何なのか。いつか、分かる日が来るだろうか。その時、自分はどうするのだろうか。
隣で俺を罵倒し続ける夕樹を横目に、気づけば今日もまた、君の声を探していた。
9/15/2023, 3:49:40 PM