「順調ですか」ぶ厚い本とにらめっこしていた私の頭上から降ってきたその声に、ぱっと顔を上げてしまって、記憶した通りの、丸いレンズ越しの皺の刻まれた柔和な笑みに見下ろされていることに気づいた私はそのまままた本を見つめる作業へと逃げ、態度が悪いと知りつつ首を横に振るだけに終わった。それを咎めることもせず「何かあれば何時でも声をかけてくださいね」と手製のホットミルクを置いて立ち去っていく先生。貴方の見る世界を、同じものを見たいと身の丈もわからない小娘に懐かれても嫌な顔ひとつしない、先生。本当に興味があるものが、見たかったものがこの本に記されていることなのか、それとも。まだ私にはわからなかった。
// もっと知りたい
3/12/2024, 9:09:56 PM