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 声が一番綺麗に聞こえるのは、雨の日の傘の下なんだってさ。

 そんな雑学披露に、うんうんと、そうなんだと相槌を打つ。
 適当に聞いているわけではない。ちゃんと聞いている。
 その話は僕も知っている。声が雨粒に反射して、傘の中で共鳴するから、だっけ。
 ほんとかどうかは知らないけどね。
 ただ、得意気に話す声がとても耳に心地好いのは雨のせいでも、傘のせいでもない。
 バタバタと傘を打つ雨の強さに辟易しながら、濡れるからもっと寄ってと真っ当な理由をつけて距離を縮め、歩幅を狭めて歩く。
 雨水はローファーなんか簡単に通り抜け、靴下はぐぢゅぐぢゅと鳴いてとにかく不快。
 それなのに、ほぼゼロの距離で並んで歩くこの状況がまだ続けばいいのにと思ってしまう。
 幼馴染みが彼氏彼女に変化した、最初の帰り道がこれとは。良いのか悪いのか、どちらもあって甲乙はつけ難い。
 けれど、声も視線も体温も独り占めできているのだからまあ、どちらかといえば良いと言ってもいいんじゃないだろうか。
 
 

6/19/2024, 5:55:09 PM