「……ふっ、泣くなよ」
目を細めて、病室のベッドで柔らかく笑うお前。
8月31日。
今日は、お前が生きる最後の日。
俺はこいつのことが大嫌いだったし、今までずっと死んで欲しいと思っていた。早く最期が来て欲しい、だから意味の分からない迷信だって信じようと思ったくらいだった。
「ありがとな」
何が、と訊く前に、まだ涙が流れていることに気づく。
俺の様子を見てお前はまた笑う。
笑うな。
俺は別に泣いてねぇし。マジだし。
それでも視界がぼやけたまま嗚咽を繰り返す俺がいて、お前はずっと声も無く俺の手を握り続けた。
「……俺がいて、みんなは幸せだったかな」
なんてことを言うんだ。
幸せの定義が決まっていない以上それの答えは幾つだってあって一つもない。そもそも俺たちはこの世界に降り立ちたくて降り立ったわけじゃないし。
お前は真面目だし、面白い奴だし、良い奴だ。
誰かのために怒れる奴で、時々抜けてて、人のために泣く奴。
だから俺は嫌いだったのさ。
俺とは違う別の何かを持ってるお前が、その何かがみんなから喜ばれるものだったお前が、最初は憎らしかった。
でもいざいなくなるとどうすれば良いのか分からなくなった。
意外と、今までお前に頼ってきたことが沢山あったし、お前が大事だったってことに気づいた。
終わるな、夏よ。
「……早く死なせろよ」
涙が溢れて止まらない。
手に持ったその重さ故か手の震えは止まらない。
心臓が強く脈打つみたいな感覚。
俺は手に持つ鎌を振り翳した。
蝉が騒々しく泣いていた。
海沿いの病院だったから、子供の笑い声が響いていた。
病室に吊るされた風鈴。
雲ひとつない青い青い空。
よく耳を澄ませば耳に伝わる海の音。
そして冷たいお前。
「やっと死ねたわ。こんだけ時間かかったのお前のせいだぞ」
「仕方ねーだろ。……俺だって死なせたくなかった」
「うわー、死神とは思えんな」
「うるせぇ」
俺は生前、こいつの同級生だった。
俺が死んだら、死神になっていて。
今までこいつのことは気にせず多くの人間の心の蝋燭を消し、鎌を振り翳し、殺した。
最初は仕事だから仕方がない、と割り切っていた。
だけどこいつを殺すのが俺だとは思いもしなかったから、今までで一番冷や汗をかいた。責任をとって欲しい。
「……お前には生きて欲しかった」
「え?この前まで死んで欲しいとか言ってなかったっけ?」
「お前には……いただろ、友達も、家族も、全部」
「……まあ?
でも俺は別にいいよ。俺がいても幸せにならなかった人もいたわけだし?」
「俺はもう死んでんだぞ」
それだとまるでお前が俺のために死んだみたいじゃねぇか。
変な奴だな、と思いつつ、訝しげに首を傾げた。
「だってお前は俺のヒーローだ」
良い奴だからこそ、知能の低い人間達から疎ましく思われる。
お前はそれで心に傷をつけられたんだな。
笑っていない目で笑いながら言うもんだから、どういう反応がこいつにとって救いなのか分からなかった。
「夏が終わったな」
俺は、当たり前すぎることを静かに呟いた。
2025.8.18.「終わらない夏」
こん中でぇ!!俺んこと覚えてる奴とかぁ!!
いねぇよなぁ()!?
気まぐれにまたやってくぞァ!!
まだまだ終われないこの夏は〜♪
ってことで汚水藻野ふたたび更新頑張っていきたいと思います。マジで気まぐれ。
学生なんで勉強関連の行事があると消えていなくなります。
♡まだ押してくれてる人いて感動。
8/18/2025, 4:44:43 AM