一介の人間

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子供の頃は

とある三兄弟のお話。

三男より。

 子供の頃は、ずっと空ばかり見ていた気がする。流れる雲に心を馳せて、自分も、知らない、見たことのない土地へ旅立っているような感覚を味わっていたと思う。
 でもそれは昼の、群青広がる空ばかりの話で、今のように、月に照らされた暗い空や、灰に染まった雲の流れをよく見た事はなかったはずだ。
 子供の頃は、こんな風に庭先に出ることも難しかった。あの父の元では部屋の中から出してもらうのすら一苦労だった。今こうやって、軒先に座り、夜もすがら空を眺め、少しお茶を嗜むなんて事ができるのは、あまりに贅沢に感じてしまう。
 ...夏であろうと、夜風は体が冷えてしまう。昔の記憶から戻ってきたその頭で、茶葉の沈澱したお茶を飲み干し、ゆっくりとリビングに足を向けた。

6/23/2024, 2:37:19 PM