《君に会いたくて》
遠距離恋愛というものはどうやら私には向いていないようだと、常々思う。例えば仕事で嫌なことがあった日。電話越しに彼と話すだけで彼の温もりに触れたいと、彼に逢いたいと思ってしまう。精神的に参ってる日は彼と電話をしない方が良いのではと最近は考えるようになった。もちろん彼はそんなこと許さなかったけれど。
「愚痴でも良い、どんな話だって聞くから電話しないなんて言わないでくれる?俺だって、お前に会いたいんだよ。」
「うん、ごめんね。もう言わない。」
「そうしてくれ。本当にごめんな。中々会いに行けなくて。今抱えてる案件が終わったら1回そっちに戻るから。」
「待ってるね。無理はしないで。」
そんな話をしたのが2週間前。彼と遠距離恋愛をしてから3ヶ月が経った頃だった。3ヶ月とは短いようで長く、彼と過ごす時間が長かった私には耐えがたいものとなってしまっていた。
今日も仕事で上手くいかなかった。自分の不甲斐なさと同僚へと劣等感に心が沈んでしまっている。こんな日は彼と電話できたら良いのだが、彼は仕事で忙しいのか留守電になることが多かった。きっと今、家に帰れば彼のいない部屋にメンタルがやられるだろうと思い、近くのコンビニでビールを買って近くの公園で過ごすことにした。
ビールをやっと一本空けたところで着信音がなる。この公園には人がいない。必然的に私のスマホがなっていることになる。こんな時間に電話を掛けてくるのは彼しかいない。スマホのディスプレイを見ると彼の名前が表示されていた。私は浮き立つ心を抑え冷静を装い通話ボタンを押した。
「もしもし?今大丈夫か?」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「最近電話出れなくて悪かったな。ちょっと仕事が立て込んでて。」
「そうだったんだ。ごめんね、何回も電話しちゃって。」
「いや、それは全然大丈夫だ。お前、元気にしてるか?ちょっと声が暗い感じがするけど。」
そんなこと無いよ。そう言おうと思ったが彼と久しぶりに話せたことと、彼の声に安心して涙が堰を切ったかのように溢れだし言葉になら無かった。
「大丈夫…では無さそうだな。本当にごめんな。」
「会い…たい…よ」
「うん。俺も早く会いたい。」
「1人…は寂し…い」
「うん。寂しいな。でも、流石にこんな時間に1人で公園にはいてほしくは無いかな。」
「え…」
どうして離れた場所にいる彼が私の居場所を知っているのだろうか。彼は遠距離恋愛の末に私の居場所が分かるような目覚めてしまったのだろうか。
「帰ってくるの遅くなってごめんな。」
電話越しの彼の声と頭上から降ってくる声が重なった。頭を上げると少し困った笑みを浮かべる彼が立っていた。
「ど…して…?」
「驚いたか?」
「幻覚?」
「現実だよ。」
「だって、仕事って…」
「今回の案件が終わったら帰るって、言ってただろ?お前に会いたくてめちゃくちゃ頑張って終わらせてきた。」
「そう…だったんだ。」
彼から会いたいと言われる度に心の奥が暖かくなる。彼は私を抱き寄せてきつく抱き締める。少し苦しいくらいが今の私にはちょうどいい。
「やっとお前を抱き締められた。」
「ずっと待ってた。おかえりなさい。」
「ただいま。って、めちゃくちゃ体冷えてる。家、帰るぞ。風邪引く。」
「え、もっとギューしてたい。」
「帰ってから嫌ってほどギューしてやるから帰るぞ。」
「ほんと?」
「ああ、約束だ。」
「約束だよ。」
繋いだ手から、彼の表情から彼が私に会いたがっていたことが伝わってくる。こういうことがあるなら、遠距離恋愛もちょっとは良いかななんて思う。
Fin
1/19/2023, 2:48:24 PM