水仙の絨毯が敷かれた原っぱに、どこまでも続く、深い深い穴がある。
花畑の中心を引き裂くように、垂直へ伸びていて、動物たちが落ちることもしばしばある。まさしく、草原のクレバスなのだ。
このクレバスは、秋と冬の移り変わりの時期にのみ、その大口をあけている。
雪が降る頃には、すっかり消え失せる。
最初からそうであったかのように、ただの花畑に戻るのである。
何故、穴はそこにあるのか。
誰が、何のために、どうして、そこに穴を作るのか。
ある人は言った。
穴は冥府への道であると
風がまだ穏やかに吹く、冬の移り変わり。
穴の近く。一人の少女がいた。
一つ一つの水仙を楽しげに摘み、
花冠を作っている。
変わらず穴は、何一つ見えない暗闇である。
獣の息遣い、叫び声。水の音、車輪の回るような音。暗闇にあるのは、それだけである。
暗闇に浮かぶ二つの双眸。瞼に水が溜まっていて、少女を見つめている。
健康的に焼けた肌、純粋無垢な少女の姿。
その笑顔は太陽のようで、彼にとってはひどく眩しい。
羨ましく思うのだ。ここには輝くものなどない。悲しみ苦しみばかりがある。
希望が欲しい。あの太陽の如くの少女なら、あるいは…。思わず手が伸びていた。
しかし、その手は届かない。
幼子の手を引く母の手で、世界は再び闇へと還る。
『冬になったら』
11/18/2023, 9:26:15 AM