最近最近の都内某所、某図書館のおはなしです。
ひとりの雪国出身者が、自分の職場の私立図書館で、環境問題や自然保護の本などパラ見しており、
要するに昨今、希少な花々が様々な要因で、
数を減らし、姿を消していることに、
とても、とっても、心を痛めておったのでした。
時刻は夜。もう閉館間際、1時間を切りました。
来館者はほぼゼロで、藤森はその日の仕事を、全部、ぜんぶ、終わらせておったのでした。
草の根運動ではなく、根本的な荒療治が必要だ。
世界の気候、世界の生態系、世界のあらゆるものが、一気に昔々の良い環境に戻る規模のものが。
雪国出身者は名前を藤森といい、
故郷の田舎の花を、風を、愛しておりました。
ところで藤森、フィクションならではのラッキーとして、異世界の技術にふれる機会がありまして。
地球上のどの国よりドチャクソに発展しているその異世界は、確実に、地球上のあらゆる環境問題を、
文字通り「一瞬で」、解決してくれるだけの魔法を保有しておったのでした。
アレだけの技術が地球にあればなぁ。
藤森はため息を吐いて、本を閉じました。
なんでも、世界間の取り締まりや渡航整備等々をしている組織の人のハナシでは、
そういう外部の技術に頼るとだいたい酷いバッドエンドが待っているし、
なにより藤森の世界はまだ異世界渡航技術が確率していないので、異世界のアイテムを大々的に使うことは「違法」なのだそうです。
「その違法を為せば、救える花があるんだがな」
藤森は再度、深く、ふかーく、息を吐きました。
「まだ外の世界の技術のことを考えてるの?」
そこに現れたのが、まさしく世界間の取り締まりをしている組織、「世界線管理局」の局員。
「やめときなよ。ホントに、本当に、すごく酷い結果になった世界を僕たち知ってるんだ」
ビジネスネームを「カナリア」といい、
なんと彼は、ものを話すハムスターだったのです!
「藤森、もしも君が、僕たち世界線管理局の目を盗んで異世界の技術を勝手に使ったら、
僕たちは君のこと、捕まえなきゃならないんだよ」
まさかのとっとこ要素出現ですが、まぁまぁ、フィクションなので。そういうもんです。
気にしない、気にしない。
「やぁ、久しぶり、藤森」
「カナリアさん」
「僕たち、別に君のこと、説教しに来たワケじゃないんだ。 ただ一緒にサンドイッチ食べたくて」
「サンドイッチ?……僕『たち』」
「僕たちの組織の局員がね、ここの大盛りサンドイッチの盛り合わせを持ってきて、
その中のナッツ系が絶品だったんだよ……」
とことことこ! とたたたた!
途端、藤森の死角のあちこちから、
5匹6匹の様々なハムスターが出てきまして、
そして、カナリアの近くに集結しました!
「やぁ、この世界の現地民!はじめまして。今日はよろしく頼むよ」
「僕たちは世界線管理局、法務部のs」
「ねぇねぇこの匂いキライ。消して良い?」
「執行部特殊情報部m」
「突然押しかけて、ごめんなさいね。でも私達、あなたが頼りなのよ。ハムスターじゃこの世界の食堂でオーダーできないでしょう?」
「世界b」
「食堂から例の、絶品サンドイッチの盛り合わせを注文してきて、どこか個室に持ってきてくれ。
代わりにおまえの知りたい異世界の事情を」
「じこしょうかいさせて……」
キュッ!キュキュー!ぷくぷく、ちゅーちゅー。
ハムスターはそれぞれ思い思いに、藤森に指示したり、妙な本の匂いをかいだり。
「サンドイッチ、よろしくねー」
なんなら藤森と他のハムズに全部任せて、図書館の探検に出発してしまったハムまでいます。
「え、 ……え?」
藤森は当然、宇宙猫。
突然ハムスターが増えたと思ったら、「サンドイッチを持って来い」だそうです。
具はナッツが良いそうです。
何が、どうなっておるのでしょう。
「異世界のハナシ、聞きたいだろう?」
カナリアが言いました。
「もしも君が、サンドイッチの盛り合わせを、
もし可能ならナッツ系だけの盛り合わせを、食堂から持ってきて僕たちにくれたら、ね?」
ほらほら、どうだどうだ。ちゅーちゅー。
カナリアは楽しそう。
「はぁ。 要するに、ナッツが食いたいんだな」
なんだか「言うことを聞かなかったら宇宙始めるぞ」と妙な脅しが聞こえたので、
ひとまず刺激しないよう、食堂へ向かいます。
「ナッツ系だけで、良いのか?」
その後のハナシは、詳しくは書きません。
ただハムズと藤森でナッツを囲んで、藤森にとっては少し早い、夕食になりましたとさ。
6/15/2025, 1:35:11 AM