ヒロ

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ここまでは、思い通りに描けたと思う。
風そよぐ緑の草原。揺れる草花。
突き抜ける青い空。澄んだ空気をイメージした、青と白のグラデーション。
小さなキャンバスに閉じ込めた、空想の世界。
切り取られた一場面が、まるでそのさらに奥まで続いて行くみたい。
下書きから色塗りまで、我ながら上手く表現できたと褒めたくなる。
巨匠のように遠くから眺めては、うろうろにんまり、自画自賛を止められない。
上機嫌で行ったり来たりを繰り返す。

う~ん、けれども。
駄目だ、やっぱり気になるな。
眺めれば眺めるほど、この絵の欠点にも気付いてしまう。
何処か、物足りない。
現実味が弱くって、物語が空想の域を飛び出しきれていないのは何故だろう。
いや、嘘は良くないな。
何処かだなんて濁したけれど、原因ははっきり分かっている。
ファンタジックでありながら、草花にリアルさを持たせて写実的に描いているのに、空に雲一つないのがいけないんだ。
快晴の空だと言い切ればそれで良いかもしれないが、現実世界、そんな天気など滅多にない。
現に美術室の窓から見える青空も、どこまでも続く気持ちの良い晴天だが、小さな雲がぽつぽつと、あっちにこっちに広がっている。

あーあ。名作のためにはやっぱり避けては通れないか。
苦手なんだよな、雲描くの。
不自然にならないように、ランダムに。
世の天才たちは事も無げにちょいちょいと描いてくれるけれど、あのさじ加減が難しい。
皆どうしてあんな風に描けるのかなあ、羨ましい。

仕方がない。更なるステップアップのため、観念して雲を描き足してみるとしよう。
ここまで来て失敗したら悲惨だが、案外ここで覚醒して上手く描けるかもしれないし。
白と青に、黒、黄色。赤色も少し用意しておこう。
筆を取った手が緊張で振るえてくる。
ぶれるな、ぶれるな。落ち着いて。

さあ、プラスαが吉と出るか凶となるか。
どうか田植えみたいな雲にだけはなりませんように。
深呼吸をして、まずは一筆。
ペタリと一手、描き足した。


(2024/10/23 title:061 どこまでも続く青い空)

10/24/2024, 3:50:15 AM