夜兎

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あなたに近付きたい

他者を拒絶する侘しい背中に手を伸ばす
指先が触れる寸前、手首を掴まれた
私の接近に気づいていなかった彼は動揺し、
視線が泳ぎ挙動不審だ。

「驚いた……君の気配に気付かなかった。」

「ごめんなさい。
あなたを驚かすつもりはなかったのだけど、何をしていたの?」

彼は無言で空を仰ぎ見る。
澄んだ空気のなか、大小さまざまな星が輝いていた。
彼の隣にそっと腰掛ければ、彼は一瞬驚いたあと、綻んだような笑みを浮かべる。
思わずつられて私も笑ってしまう。
感情を表に出そうとしない彼が笑ってくれるだけで
幸福に満たされる。
それがたまらなく嬉しい。

「一人で星を見ていると落ち着くんだ。」

「そうなの? ……なら、邪魔しちゃったかしら?」

「いや、隣にいてほしい。一緒に観たい。」

耳元で甘えた声で囁かれ、頬が熱い。
気恥ずかしさから顔を背ければ、隣から視線を感じる。
物言わぬ圧に耐えきれず距離を取ろうとすれば
抱きすくめられた。
腕に籠もった力が執着を感じさせ、呼吸すらも奪う。

「……逃さないよ。」

らんらんと漆黒の瞳を輝かせて、私を見下ろす。
その瞳は獲物を見つけた捕食者のようで、逃げられない。
食われてしまう。
そんな事を考えながら、下りてくる唇を受け入れた。


一度あげましたが、加筆修正しました

8/25/2025, 12:43:16 PM