一ノ瀬

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 先輩が誰かと一緒にいる! 僕以外の誰かと! 僕はきゅうりにびっくりした猫みたいに飛び上がって、シャーッ! と威嚇するようにふたりの間に割り込む。どうやら知り合いでも何でもなく、ただ迷子のその人に道を尋ねられただけらしい。先輩の代わりに僕がテキパキと教えてやって、さっさと追い払う。危なかった。これが現実じゃなければ相手を殺していた。
 去っていった方角を警戒するようにじっと睨みつけていると、先輩が笑う。「君は過保護だねぇ」と言い、僕の頭をぽふぽふとなでる。嬉しいけど嬉しくない。先輩は何もわかってない。
「大丈夫、君だけだよ」
 そう微笑む先輩がひどく優しい顔をしているから、僕はそれを信じて安心してしまいたくなる。でも先輩はきっと、地獄の真っ只中にいる人を見つけたら簡単に手を差し伸べてしまうだろう。相手が動物でも人間でも。完膚なきまでの救いを。僕にやったみたいに、簡単に。
 君だけ、が、君も、になる日がいつか来る。僕はそれをずっと恐れている。それだけが不安なのに、先輩は気づく素振りもなく僕の頭をなで続ける。さすがの僕にも矜持ってものがあるのでそろそろやめていただきたいのに、その手があまりにも気持ちいいものだからなかなか言い出せないままでいる。

1/25/2026, 3:05:06 PM