汚水藻野

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「この日にここを訪れるのが私にとっての『世界一素敵なこと』なんだ」

今日は8月28日。学生である俺にとってはもうすぐ夏休みが終わってしまう最悪な最後の週だ。
運動不足で体調を崩すのもだめだし、夏休みが明けても部活について行けるようにしなくちゃな、と、通学路を走り込みしていたら、ちょうど墓地にその女の子がいたのだ。

「きみはなんて言うの?お母さんは?」
「あなたが初めてよ。そんなふうに話しかけてくれたの」
「は?何のことだよ。てか流暢だな」

明らかに小学生の見た目をしているが、精神的にはすでに高校生を名乗れるくらいには落ち着いていて、感情の起伏も少なさそうだった。
不思議な子だと思った。


「おい、おいニイちゃん」
「え、はい。俺っすか?」

急に背中を叩かれた、と思ったら、近所に住んでるおじいちゃん。びっくりした。
触れられた途端、音のない世界に歌が聞こえるとか、モノクロの世界に花が咲くとかみたいな、何もないところから色づくような変化。

「……ニイちゃんさっきからどうしたんだ?走ってたんだろう?なのに急に立ち止まって墓地の方見て……」
「え、だってそこに……あれ?」
「疲れてるんなら早く帰んな!ニイちゃんよぉ」
「……はい、お気遣いありがとうございます……?」

……女の子は無事に帰れたのかな。

と心配になりながらも、墓地に立っている一つの大きな木から、目が離せなかった。



2025.8.28.「ここにある」

王道な異怪ですね。

なぜか知らんけど「プレートじゃねぇか!」がよぎりました。やっぱ印象強いあの人。

8/27/2025, 3:47:03 PM