秘密の標本
母が亡くなった。バイクに乗っていたところ、信号無視したトラックとぶつかったのだ。即死だった。
今、母の部屋にいる。かつてここで家族みんなで寝ていたことを思い出す。ここに入るのはそれきりだった。
『奥のクローゼット、開けて』
予期していたのかわからないが、彼女は遺言を残していた。
そこは絶対に開けてはいけないと言われたクローゼットだった。
カラリカラリと重々しく扉が開いた。
「あ…」
アゲハチョウ、モンシロチョウ、ルリタテハ…。
昔取り上げられた虫の標本が全てそこにはあった。虫嫌いで、そんな残酷なことをしなさんなと散々言っていたのに。こうしてきちんと立てかけられている。まるで鑑賞していたかのように。
「母さん、なんでだよ」
息子から長らく取り上げておいて、成人しても返さずに、どうして今…?
ゲームはのめりこむから絶対ダメと言いながらスマホのパズルゲームをしている母。
その志望校はお金がないから無理とはっきり言いながら新しい仕事を見つけてきたと言う母。
その度に言ってきた。
「母さん、なんでだよ」
もうそんな母には会えない。
11/2/2025, 10:46:42 AM