薄墨

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月が出ている。
永遠に、同じように光っているとさえ思えるような、丸い月が出ている。

月光は、柔らかな白いカーテンの隙間から、柔らかく飛び込んでくる。
白っぽく、もったりと滑らかな光が、ノートのわずかに膨らんだ白い面を照らす。
moonlitght。
ノートの端に置いた古びた便箋に書かれたその文字が、月明かりにぼうっと照らされる。

月が出ている。
青白い、中秋の、大きな満月だ。
手元に柔らかい月光を受けながら、私は手紙をめくる。

この古びた手紙は、古道具屋でたまたま買ったこの机の引き出しに、たまたま入りっぱなしになっていた。
遠い異国の言葉で、日本語のような順番で単語が並べられたそれは、ちぐはぐで、支離滅裂で、けれどもどこか思いやりに溢れているような気がした。

だから持ち主に渡してやりたいと思った。

大学生になってからというもの、全く使っていない真っ白なノートと、高校時代に読みづらくなるまで蛍光ペンを引いた英語の辞書を引っ張り出した。
手紙の書き出しは一つの単語で始まっていた。
moonlight.

今日は月が出ていた。
まばゆいばかりの、柔らかい月光がさしていた。

バイト帰りで疲れていたはずなのに、私は、吸い込まれるように手紙と筆記用具を手に、机についた。

月明かりが柔らかく風に揺らいでいた。
手紙の、筆で無理やり書かれた下手くそなmoonlight.が輝いて見えた。

月が出ている。
永遠に夜を、同じように眺めてきたのだ、という風に。
カーテンが、夜風にそよいだ。
月の光が、柔らかく飛び込んでくる。

10/6/2025, 5:43:16 AM