ミミッキュ

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"三日月"

 明日の準備を済ませ、火照った身体を冷ます為にブランケットを羽織って裏口の扉を開いて外に出る。
「……さっむ」
 う〜、と唸って身を縮こまらせると、少しでも暖を取ろうと両の手のひらに息を吐く。吐いた息が白い霧のように数秒漂う。
 たとえ短時間でも一月、しかも夜だ。流石にブランケット一枚は堪える。けれど火照った身体を冷やすには十分だ。中の温度と身体を動かした事で代謝が上がったのが相まって少し浮ついていた身体が引き締まる。
 肌寒さに慣れてきて、顔を上げて空を見る。綺麗な三日月が夜空に浮かんでいて、思わず感嘆の声をあげる。
──そういえば、三日月に向かって祈ると願いが叶うとか幸運が訪れるとか聞いた事あるな。
 一体どこで、誰に聞いたか忘れた知識を思い出し、両手を組んで口元に持っていき、両目を閉じて祈る体勢になる。
 別に、そんなスピリチュアルな事を鵜呑みにしているわけではない。ただ、こんなにも綺麗な三日月が昇っているのだから、なにか御利益がありそうで、気付いたら祈っていた。
 ただ、《祈る》と言っても何を祈るのかは決めていない。ただ無心で祈る体勢をしているだけ。形だけの《祈り》だ。それでも意味があるような気がして、寒さを忘れて三日月に《祈り》を捧げる。
 目をゆっくりと開き、顔を上げる。そろそろ戻って晩御飯の用意をしなくては。
 するとここが真冬の夜空の下だと身体が思い出したのか、急に寒さが襲ってきて自身の肩を抱いて身を震わせる。
 くるりと身体の向きを一八〇°変えて、急いでノブに手をかけて回し、滑り込むように中に戻った。

1/9/2024, 11:15:13 AM