病室
病室にはいつも不穏な空気が漂っていた。医者も1日に何度も来ては首を横に振り縦にふることは一度もなかった。俺の姉はいわゆる植物状態だ。死んだも同然なのに俺は母親に毎日病室につれてこられた。そんな日々が続いているうちに俺はカッとなって言ってしまった。「どうして毎日毎日あの冷たい空気が流れている病室にいかなきゃいけないんだよ。俺だって放課後友達と遊びたいし勉強したい。母さんだって知ってるだろう。姉ちゃんがもう目覚めないことを」はっとして母さんの方を向くと同時に「パンッ」という音がした。俺は頬に手を当てて母さんをしっかり見た。母さんの目には涙と怒りの気持ちがたまっていた。「どうしてそんなこと言うの。友達と遊びたいのなんかどうでもいい。あんたのお姉ちゃんはもう友達と遊べないのよ」そう言って母さんは俺の腕を強引に引っ張った。だけど俺はその母さんの手を振り払った。「もうすぐ死ぬやつなんてどうでもいいよ。」俺はそう言って病院とは反対の方へと走り出した。その時俺は決めた。もうあの家族もとには帰らない。あれから21年この間植物状態で死んだと思っていた姉ちゃんに会った。でも姉ちゃんは俺の隣を素通りした。まぁ当然か。21年も経てば覚えているわけがない。でもなぜだろう。さみしいと思ってしまうのは。
8/3/2024, 5:23:06 AM