300字小説
春の宴
山里は春が一気に駆け上ってくる。
畑の脇に植えたラッパ水仙にチューリップ。ムスカリにハナニラ。山裾には桜が咲き誇り、山のところどころを白く染めるのはコブシか木蓮か。
まさに春爛漫。うらうらと暖かな日差しに木々の影に尻尾や角、翼のある影が見え隠れする。
『人の子がおる』
『花の側で舞いたいに』
『人の子がおる』
風に乗って聞こえてくる囁きに俺は大きく欠伸をした。
「昼酒はきくな。一眠りするか」
残った酒と稲荷寿司、饅頭を縁に置いて背を向け横になる。
パタパタと軽い足音が縁に飛び乗った。
起きると夕日が辺りを赤く染めている。
「……ん?」
縁に小さな獣の足跡。稲荷寿司と饅頭を盛った皿には一枝の桜の枝と共に筍が乗っていた。
お題「春爛漫」
4/10/2024, 11:56:44 AM