るね

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恋人との色っぽい約束を回避しようとする話
(こんな話で良いのだろうか)
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【遠い約束】




 同棲中の恋人に頼まれていた買い物をうっかり忘れた。彼女はぷんすか怒って、何か埋め合わせをしろと言う。
 自分が悪いのはわかっているので、どうにか機嫌を取ろうと、大抵のことなら受け入れるつもりで「どうしたらいい?」と聞いた。

 そうしたら。耳元で囁かれたのだ。実に色っぽい声音で「一度縛らせてよ」と。

 どういう意味で言われたのかわからないほど初心ではない。カマトトぶるつもりもない。ただ、それは駄目だろうと思った。自分の中の変な扉を開きたくなかった。

 腕だけ、軽くでいいからと言う彼女に「肩が痛いから今は無理かなぁ」と誤魔化した。
「じゃあいつか、治ったら。約束だよ」
 そんな風に言われて、まずいと焦った。

 数日経ち、肩が治ったか聞かれて、また誤魔化した。全力で有耶無耶にし続けて、数カ月。彼女はその件について何も言わなくなった。

 よし。このままなかったことにしてしまおう。果たされることのない、約束したこと自体忘れてしまうような遠い約束にしよう。封印だ封印。

 更に時間が経って、彼女の誕生日が近付いてきた。何が欲しいかと聞いたら、彼女はチェシャ猫みたいな笑い方をした。
「うーん、そうだなぁ。今度こそ縛らせてもらおうかな」

 察した。逃げられないのだと。本当は忘れてくれてなんかいなかったのだと。

「………………痛くしない?」
「しない」
「本気で嫌がったらやめてくれる?」
「うん」
「それなら、まあ……少し、なら……」

 今までこいつにされたことで、本当に嫌だと感じたことなんてほとんどない。でも。だからこそ嫌だったんだよ……




4/8/2025, 8:38:38 PM