燈火

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【目が覚めるまでに】


初めて話した日、貴女に失望したことをよく覚えている。
公爵令息である僕は、幼い頃より王宮に出入りしていた。
退屈な話やくだらない噂に満ちた場所は居心地が悪い。
護衛の目を盗んで、僕はよく庭園に逃げ隠れた。

その日、茂みには勉強を嫌がる先客がいた。
可憐なドレスを葉っぱまみれにして息を潜める貴女。
自分の命令で誰かが血を流すことを嘆き悲しんでいる。
我が国は他国への侵略によって繁栄してきたというのに。

王位継承権第一位の貴女はいずれ王位を継ぐ。
あんな甘い考えの女王に仕えるなんて、ありえない。
僕は成人もしないうちに祖国を出る準備を始めた。
家は弟に任せよう。優秀だと聞くし、問題ないだろう。

学園の在学中、僕は遊学のていで各国を訪れた。
もちろん歓迎はされなかったが、収穫は大いにあった。
やはり知識だけでなく、実際に見てまわらなくては。
報告のため国に戻った数日後、崩御の知らせを受けた。

謁見の間にある玉座には、女王となった貴女が座する。
僕の知らぬ間に何があったのか。幼き日の面影はない。
粛々と公務をこなし、どんな命令でも躊躇わずに下す。
かつての陛下のような、理想的な統治者になっていた。

本当に同じ人物かと疑いたくなるほどの変わり様。
今の貴女のためならば、僕は喜んで力を振るおう。
騎士や兵士を労りながらも、駒のように扱う冷淡さ。
気高く君臨する貴女は紛れもない悪で、実に美しい。

しかし、それはきっと偽りの姿だ。ある噂が流れている。
貴女の自室から夜な夜なすすり泣く声がする、と。
仮面が剥がれ落ちる前に、もっと繁栄させなければ。
いつか覚める夢だとしても。その日まで、貴女のお側に。

8/3/2023, 7:03:50 PM