わをん

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『Love you』

職場にやってきた新人さんが外国の人だった。自国民ばかりのチームだったので自分も含めたみんながみんな緊張に震えたが、話をしないことには仕事は始まらない。歳が近いからということで教育係に任命された俺は彼に仕事を教えつつ言葉や文化の違いを感じ取り、それをみんなに共有するという立場になった。
翻訳アプリを交えながらも彼と話をしてみると自分がこれまで出会ったどの人よりも気が合うことがわかってきた。彼のことをもっと知りたくて仕事を抜きにして飲みに行くことも増えてきて、きょうも人で混み合うザ・居酒屋な店にふたりでビールをあおっている。
「缶ビールもおいしいけど、生ビールはやっぱ美味いね」
「それな」
とりあえずビールにとりあえず枝豆。むっしむっしと口に運びながらスラングもスラスラ言えるようになった彼ととりとめもなく話をする。彼がスマートフォンで見せてくるのは故郷に暮らす彼の婚約者の写真。とてもいい笑顔のツーショットは幸せそうだけれど、彼がいつかはこの国を離れるのだとわかって胸が少し痛んだ。少し曇った俺の顔を目聡く見つけてどうしたと聞かれるけれど、どう言い表せばいいのか。
「君がずっと、この国にいればいいのに」
「しばらくはいます。けれど、いつかは帰ります」
「俺は寂しいよ。君がいなくなることを考えただけで」
小さく感嘆の声を上げて彼は胸を押さえる。
「それは、熱烈な告白ですね」
「いや、どうだろう……そうなのかな?」
「私は、そう受け取りました」
人で混み合う居酒屋のカウンターの隣から大げさな音を立てて、彼が俺の頬にキスをする。外国の人はやることがストレートだ。すかさずおしぼりで拭うと彼は爆笑したので俺もつられて笑う。
「これは浮気になるんじゃないの」
「ノー。ノーカンです」
ふたりしてだらしなく笑う。酔いが回っているせいだ。

2/24/2024, 12:57:29 AM