れいおう

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『不安と安心の感じ方』

模試で志望校を書かなければならなくなったのは高2のときからだった。受験カードを見ると、志望校の欄が追加されていた。先生は
「そろそろ志望校を決めておこう」
と言う。僕はまだ気が早いだろうと思っていたのだが、周りの人間を見るとスラスラと志望校の欄を埋めていく様子が目に映った。
なぜみんなして行きたい大学が決まっているんだ。僕はシャーペンを持つことができずその場で固まる。行きたい大学なんてない。先生の
「あと五分だぞ」
という言葉で正気を取り戻す。
結局その時は自分の県の国立大学で志望校の欄を埋めた。
模試の何週間か後に、教育相談という拷問が始まった。その時に、今回の志望校についての質問をされる。
「大学に行ってなにがしたいですか」
と。大学に行ってしたいことなんてある訳がない。周りが行くから行く。それでいいじゃないかと言いたくなる。
「まだなにも考えてないです」
正直に答えると、何かごちゃごちゃと説いてくる。
「他の人はもう決めてますよ」
とか言って、不安を煽るだけ煽ってくる。
今度からは先生に話せるように内容を創らなきゃ。
僕は不安の感じ方と安心の感じ方を知っている。どちらも他人と自分とを比べることで感じることができる。自分よりレベルの高い人を見ると不安になるし、自分よりレベルの低い人を見ると安心する。
さっきは少なからず不安を感じてしまったので、僕は安心感を得たかった。だから僕は喋りに行く。僕よりレベルが低いと思われる人へ。
だけどそれは無意味な行為だった。誰一人として僕よりレベルが低い人はいなかった。それもそうかと模試の時を思い出す。みんな志望校書いてたもんな。意識高すぎて笑えない。
不安に押し潰されそうになったので一旦家に帰ることにする。家に帰ったからといって何かが変わるわけでもないけど。とりあえず親に相談してみる。そしたら
「自分のしたいように行きなさい」
だってさ。それがないから悩んでるんじゃん。子供が夢を持ってるなんてそんなの願望でしかないじゃん。反論したい気持ちに駆られる。だけど面倒くさいのでそんなことしない。僕は優等生だから。
なにも決まらないまま時間は進んで三年生ゼロ学期。いや二年生だろとかいうツッコミは誰にも届かない。
周りの人間はもう受験モードに入ってるらしい。大学受験の話ばっかり。よくそんな話できるな。ただそれを聞いていると嫌になる。周りが僕よりレベルが高いと自覚させられるから。だけど学校には行かなきゃいけないから逃れられない。
そんな時期だからかまた教育相談が始まった。僕は創った話を先生に聞かせてやる。そしたら
「いい夢だな」
って、適当に創った話なのに。
そのまま時間は進んでいった。僕は全くもってやりたいことが決まらないし、夢だってもてない。だけど受験までの日数は減ってくるので勉強している。
志望校は県の国立大学。学歴はどんくらいだろ。地方国公立のレベルは知らない。ただ周りの人間からすれば低いらしい。僕は低いレベルの人間だと言われたような感じがした。
僕はその大学に落ちた。その代わりに名前も知らない大学に受かった。
その名前も知らない大学の合格発表があった日、僕は多くのSNSサイトを巡回した。合格したあと周りの人間の、僕より高いレベルの大学に合格したという報告でこんな大学で良いのかと不安を感じたからだ。
合格の報告なんていらない。不合格で浪人決定した人の投稿だけが見たかった。安心感を得たかった。
多大な安心感を得たあと僕はこんなことを思った。
「僕はもしかして最低の人間か」
と。
その受かった大学に僕はとりあえず行くことにした。そしてこんなことに気がつく。
「この大学は僕よりレベルの低い人ばかりだ」
と。僕はそこにいるだけで安心感を感じることができたのだ。不安は一切感じなかった。
僕は不安の感じ方と安心の感じ方を知っている。自分よりレベルの高い人を見ると不安になるし、自分よりレベルの低い人を見ると安心する。
それはこの世の理だ。
そう自分を肯定して、僕は大学に出かけていく。
就活や社会人生活がどうなるかなんて考えず、
ただ自分を安心させるためだけに。
自分のその時だけの利益のために。


1/25/2024, 10:01:49 PM