北極星は、南の形を夢見た

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#37【何もいらない】

あぁ、とても、綺麗だなぁ。

テレビをつけると、屋上のLIVE映像が
映し出されている。
カメラマン不在のカメラは、画面いっぱいに
燃え盛る空を映し出していた。

誰もいなくなったテレビ番組は続いている。
これは、私たちの人生が終わる合図なのだ。

何も、いらなかったのかもしれない

平日10%offのクーポンだとか。
買いだめしておいたトイレットペーパーだとか。
趣味とか、資格の本だとか。

どこにも挙げることは無いのに、
なぜか撮ってしまった隕石の動画とか。

結局ぜんぶ、無に還ってしまうんだ。

わかっているのに、最後まで捨てきれなかったな。

戦隊ヒーローの、ビームみたいな光線の光が
閉めたシャッターの隙間から漏れ出ている。

まるで映画のワンシーンみたい。
みたい、だったらな。

シャッターから背を向け、ワンルームに向かい合う
そこには、自分の生きた証。

そこら辺に散らばったゴミも。
畳み掛けの洗濯物も。
もう随分と使ってないノートパソコンも。

どれも、終わってしまう世界には必要のないもの

しかし、この世に生きていたことを証明できる
大切なものなのだ。

唯一の光源である、テレビの電気が消えた。
スマホの充電は1%になっている。

そのまま、イヤホンをつけて
適当に音楽を流す。

歌詞も分からない洋楽ロックが、途切れ途切れに
言葉を紡いでいた。

ボリュームを最大にしても、隕石の轟音は
鳴り止まない。

その雑音が聞こえないように、自分も
カタコトの英語を叫んでみた。

『My Life!My Life!...but I still wanna live!』

シャッターから漏れ出る光が
徐々に大きくなってゆく。

点滅したスマホは、最後のサビを抜けたあとに、
力尽きたように光を失った。

最後に見えたのは
10年間住んだ、ワンルームにうつる自分の影。

額のなみだを拭くことはなく、
ただその部屋を見つめて、無理やり口角を上げる。

あぁ、とても、綺麗だなぁ。

4/20/2024, 1:53:15 PM