「……ひと足遅かったみたいだね?」
「だから予約しておけと言ったんだ」
見渡すかぎりの自由席はすべて埋まっていた。青空の下、木々や草花に囲まれて人々がしずかに眠っている。
「あぁでもほら、此処なんか見晴らしが良いよ。立ち見は嫌かい?」
「ひとりで勝手に突っ立っていろ、一生」
「一生って……」
わかりやすく傷ついた顔をして、若い男が腕を下ろした。気にも留めず男は離れてゆく。二人は同僚だった。
ただ一度、同じプロジェクトに参加しただけの。
「悪かったよ」
若い男がぽつりと。
「君を巻き込むつもりは無かったんだけどさ」
「…………」
謝られた男はそのとき背を向けており、視線の先には刻名があった。どこかで聞いたことのあるような、いちどは呼んだことがあるような、ありふれた名のひとつ。それがなぜか、いまは無性に懐かしく。
石のように固まる後ろ姿に、先ほど謝った男は気まずそうな顔をした。
「『―――』! ……本当に、ごめん」
男はそのときようやく顔をあげ、横を向いた。
「何か言ったか」
夢から醒めたような目をしている。
「君ねぇ……」
もういいよ、一人で勝手に行くから。拗ねた態度を隠さずに、男が離れてゆく。そのあとをもう一人の男が着いていった。
青空の下、見渡すかぎりの墓石が土に埋もれていた。それぞれが何度も足を運び、謝罪し、決意を供え、空席を探したことのある。
【この場所で】
2/11/2026, 2:26:37 PM