とある恋人たちの日常。

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 ……彼女の機嫌が……めちゃくちゃ悪い。
 笑顔で対応してくれているが、端々にトゲを感じる。
 
 それとは別に、懸念事項があった。
 
 今日届く予定のアレが見つけられないんだよな。到着しているって連絡は来ているんだけれど……。
 
 彼女にサプライズしたかったから、俺が受け取りたかったのに見つからない。まさか彼女が受け取ってる? それはそれで困るな。説明、どうしよう。
 
 ちょっと不機嫌ではあるけれど、彼女に声掛けてみようかと……思うけれど、どうしようかなー。
 
「あの……」
 
 なんて思っていたら、彼女から声をかけてくれた。それが嬉しくて、頬が緩んで顔を上げた。
 が。
 彼女の頬はぷくぷくしていた。
 
 なんで怒ってるの〜!?
 
 彼女がテーブルに置いたのは、俺が待っていた荷物。小ぶりで小さいダンボール箱。
 
 やっぱり彼女が受け取っていたか……。
 
「これ、なんですか」
 
 明らかに声に怒気が込められている。
 彼女の白くて細い指が指したのは品物の箇所。『セクシーランジェリー』と記載されていた。
 
「え!? なにこれ、ちょっと待って!?」
 
 俺はこんなもの頼んでない!?
 それと彼女が怒っている理由も何となく察した。こんなの、何を着せられるんだと不安にもなる。
 
「ち、違うからね!? 俺が頼んだのはネックレ……」
 
 言いかけて口を噤んだ。
 彼女を見つめると、ぷくぷくしていた頬が無くなり、きょとんとした顔で俺を見ている。
 
「……白状します」
 
 俺は両手を上げて、項垂れた。
 箱を開けると、更に小さなプレゼントボックス。更に開けると、細長いスエード基調のベロア生地の箱が出てくる。それを彼女に渡した。
 
「これ……」
「あの、いや、誕生日でもなんでもないんだけど、見かけた時に君を思い出しちゃって……どうしてもあげたくなったの」
「無理、したんじゃないですか?」
「多少の無理は折り込み済みです」
 
 彼女がジュエリーボックスを開けると、出てくるのは一粒だけの薄水色の宝石のシンプルなネックレス。
 
「これ、アクアマリンですか?」
 
 驚いた顔で、ジュエリーボックスに魅入る彼女。
 俺は口の端が上がってしまう。これは特別な宝石なんだ。
 
「違うよ。これはダイヤモンド。君の誕生石だよ」
「こんな色のダイヤモンドがあるんですか?」
「そう、これはアイスブルーダイヤモンドって言うんだって!」
 
 彼女は驚きながら、瞳が潤んでいる。彼女は俺のそばに寄り、肩に頭を乗せて抱き締めてくれた。
 
「ありがとうございます。大切にしますね」
「うん」
 
 サプライズになったか分からないけれど、喜んでくれたからいいか。
 
 そんなことを思いながら、抱き締め返した。
 
 
 
おわり
 
 
お題:正直
 
 
 
おまけ
 
 先輩だよな、セクシーランジェリーって書いたイタズラ。
 俺が買いに行った時に一緒にいたのはあの人だけだもん。
 こんなイタズラするのもあの人らしいから、絶対に先輩だ! 明日、苦情を申し入れてやる!!!

6/2/2024, 12:59:07 PM