琥珀

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「幸せとは」

 家族の幸せ、これはまた微妙なテーマの課題だと思った。わけあってばあちゃんと暮らしている私は、両親や兄弟姉妹のいる生活を知らない。ただ今の生活を書くだけで十分家族の幸せになることは分かっている。幸せなのに、作文が恒例のごとく廊下にはりだされるのを思うと、悶々とした。

 ばあちゃんは歳の割に足腰も丈夫で、会話もしっかりしている。そのうえ勘がいい。でも、食事のときは昔を思い出すのか、私が何度もされてきた話を、毎回のようにするのだ。
「じいちゃんさは一回も会わねえで結婚したもんだ。昔はよくあることだとこでな。ただお金もなくて生きるのさとにかく働いたさ」

「それ、一回も会ったことなかったじいちゃんはすごくハンサムで働き者だったから頑張れたって話でしょ!私、すっかり覚えちゃったんだから」

「ほうだのか。でもな、思い出すのはいつもこれだけだ。歳とると昔ばかり思い出すんばよく聞くけどな、これだけさ。他に思い出すのがいくらでもあるからかね」
「え〜たとえば?」
「毎日毎日、もらいものの野菜だの魚だのって、そればっかだけどな、メイちゃんば昔から好きだと言って食べてくれる。好きな料理もずっと変わんねくて、そればっか作っちまってさ。けど今は、メイちゃんも料理するようなってな…」

 ばあちゃんは、その後は何も言わなかった。何もなかったみたいに食事を終えて、いつもみたいにテレビをみる。私ももう何も考えることはなかった。ばあちゃんの思い出話を聞いて、煮物と焼き魚を食べて、愛されて。
それで何もかも、十分だった。




1/4/2026, 12:44:46 PM