ベルが鳴る。
壊れかけのそれは途切れ途切れの乾いた音を鳴らす。
1回、2回。
身体が重い。ベッドにいまだ沈みながら、遠くで響くベルの音に脳だけが緩く覚醒していく。
3回、4回。
今日の訪問客はなかなかに辛抱強いらしい。
鉛のようにずっしりと質量を持った両腕と、古びたブリキのおもちゃみたいにギシギシと音を立てる両脚に力を込めて、ようやくベッドから立ち上がる。
5回、6回と鳴った所で私は玄関の扉を開けた。
『 Merry Christmas! 』
目の前には小さなサンタクロースがいた。
まだ幼い子どものように見える彼は、しかしとても大人びたように恭しく一礼をした。
『はじめまして』
そう声を掛けられて、停止していた思考がようやく動き出す。
私の胸にも届かないほどの背丈。赤と白を基調とした、ぼんぼりのついた帽子とふわふわのマント。
やわらかく透き通った声、少し赤い頬と鼻、満面の笑顔。
小さな両手を後手に組んで、私の反応を待っているようだった。
「えっと…君はだれ?」
私がそう訊くと、小さなサンタクロースはパッと目を輝かせてこう言った。
『僕は、“貴方”をお守りする様雇われた精です』
『“貴方”が最近笑えなくなってきたっていうから来たよ』
それは歌うような、とても美しい響きだった。
『ベルの音』
「灯火」Mrs.GREEN APPLEより
12/20/2024, 9:30:39 PM