「時を繋ぐ糸」
愛犬のクロは、もうすぐ16歳になる。
いつもわたしの手の届くところにいて、
鼻先でそっと手のひらを押してくる。
その湿った感触。これが“今”の証拠。
何千回、何万回と繰り返されてきた“今”だ。
クロが仔犬だった頃、
散歩中に四つ葉のクローバーを見つけた。
わたしはそれを栞にして本に挟んだ。
その本を開くたび、若かったクロが蘇る。
あの日のやわらかい光とともに。
時というものは、それは太い糸ではない。
無数の細い、透明な糸の集まり。
あるいは、透明な糸で織られた布。
光の加減で見えたり、見えなくなったりする。
最近、クロの歩く速度がゆっくりになった。
時を繋ぐ糸は、わたしたちを、過去から未来へ、
そっと引き寄せているのだろうか。
そして、いつか、未来から過去へも…。
クロの寝息を聞きながら、その糸の感触を、
ただ静かに、大切に噛みしめている。
11/26/2025, 5:18:53 PM