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 夏は、特に晴れの日は嫌いだ。陽の光は頭に当たると脳蒸し焼かんばかりの熱さで帽子被ってもなおサウナの様な蒸れが襲う。右手に持った温度を持っていく天然水のペットボトルは熱中症までのカウントダウンを始めそうだ。
 石段を一段一段登りながらこんな日にこんなことをしなければならないのか考えた。先ず今日の目的たる彼女に思いを馳せると「わたしのために頑張っている先輩かっこいい流石です一生貢ぎます」などと鼻息荒く語る姿が目に浮かんで吹き出しかけた。
 石段を登り切ると右を向くとお地蔵様が見えた。なんとなく会釈しながら通り過ぎてバケツを借りてウロウロと知った名を探す。そしてー―
 「わかんねえ」
 その石の前に立つ。今だに実感が湧かない。でも紛れもなくそこには馴染みのあるなまえが刻まれていて。
 長く息を吐きながら桔梗を瓶に挿す。そして恨めしいくらい快晴な空は桔梗と同じ色をしていた。
――桔梗って一途な女性の象徴らしいですよ!!わたしこの花にピッタリの女になります!!
 蘇るのは初めてのめての交際で狼狽して俺が二人きりになるのを避けていたとき、高らかに宣言した姿。頑張るのは俺の方だと言っても「相思相愛じゃないですか一層燃えますね!!」とか言って聞かなかったのはいい思い出だ。
 視線を墓石に戻すと視界がぼやけていた。涙が滲んでいたのだ。自覚したら涙が、思いが決壊したように溢れる。
 初デートの水族館、絆創膏を貼ったらやる気が出すぎて翌日ダウンしたこ、ハートのストローを勧められて死んでも嫌だと断ったこと――そして卒業旅行乗ったバスが事故にあったこと、目覚めたらクラスで生き残ったのは数名だったこと、自分だけ助かったこと。一緒にやりたいことがいっぱいあったこと。
 
 その後、暑さも忘れて泣き続けた俺は熱中症で倒れてやっぱり夏は嫌いだと再確認した。
 でも夏の青空を、特に快晴の空を好きになった。

4/13/2023, 4:04:16 PM