雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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―暗がりの中で―

気づけば視界は真っ黒だった。
何も見えない暗がりの中で、私は、
壁?に背中を預けて床?に座っていた。
私はパニックになった。
何故こんな暗いところにいるんだ。
そもそもここはどこなんだ。
吹き付けてくる冷たい風から、
おそらく屋外なんだと分かる。
でもそれだけだ。
必死に頭の中で記憶を甦らせていると、
人が近づいてくる気配がした。
不思議なことに、足音は全く聞こえなかったが、
その人はこっちに向かっているようだ。
人並外れた私の聴力でも
その人の足音は聞こえない。
ということは、只者ではないのかもしれない。
すると前方約1mのところで、
服が擦れるような音がした。
私の目の前でしゃがみ込んだとか、
そんなところだろう。
「大丈夫かい?
怖いだろうけど、すぐに助けてあげるから。
じっとしてるんだよ」
声が聞こえた。たぶん、私の目の前にいる人だ。
私は、
『誰ですか?』
と聞こうとして、口を開こうとした。
その時に初めて、口元の違和感を覚えた。
声を出すと、自分の声がこもって聞こえた。
発声者で無ければ言葉として聞き取ることは
できないだろう。
これは…口枷?
…!
じゃあ、ここは
そう思った時、暗がりがサッと晴れた。
晴れたと言っても、見る限り、今、私が居るのは
ビルかどこかの屋上のようだった。
私の頭上で光る蛍光灯と月明かりのせいで
一瞬明るい風景に見えたが、今は夜中らしい。
星が瞬く空を背景に、
目の前の人の姿も明らかになる。
黒いスーツに光沢のある青いネクタイを纏い、
黒いスカーフのような布を手にした若い男の人。
どうやら先程までの暗闇はこのスカーフが
私の顔を覆うことで作り出していたものらしい。
月明かりを浴びているせいなのか、
私の目に神々しく映ったその人は
私の項の近くに手をやり、口枷を外してくれた。
『貴方は…?』
「名乗れる程の身分じゃないんでね。」
そう言って悲しそうに微笑んだ。
「…でも、確かに呼び名が無いのは少々不便だ…
…じゃあ、俺のことは―
ムーンとでも呼んでくれる?
それで、君の名前は?」

11/3/2022, 1:37:17 AM