それは最後の選択だ。
選んだんじゃない、でも、選ばされたのでもない。どっちでもない、境界の間の、無限にあるあいだのひとつだ。でも、それは必要だった。それだけだ。
大勢の人たちが死闘を繰り広げるなか、目立たぬ場所で座る。誰も気づかないが、それがいい。ぽろん、と背負っていた得物を鳴らす。調整は完全にできているが、そんなことはどうだっていい。それはハートだと言う人もいるが、どうだっていい。*****を追う前に覚えたモノを得物にのせると、はるか前方で暴れるソレが奇声をあげるが、その意味に気づく者はいない。ぼん、と肉の爆ぜる音がするが、誰も気づかない。誰かが放った火炎魔法の効果だ。構わず指を動かすと、さらに大きな爆音が響く。
「何をしてるんです?!」
いち早く異変に気づいたボスが声をあげると、数人がこちらを向いた。人一倍繊細で気の回るあの人らしいが、この場合余計なことを、といったところだ。ソレと同じように、ぼん、という破裂音とともに右足首の肉が爆ぜる音がする。激痛が走ったはずだが、前もって備えていた俺には何のことはない。ただただ目の前の怪物に憎しみをのせて弦を撫ぜると、さらに相手の首のひとつが爆ぜ、体液が飛び散る。
死ね。滅べ。あのひとたちから離れろ――そう思いながら吟じる。
「お前!」
遠くからあのひとの声が届く。お願いです、あなたは、あなたの望んだ先を進んでください。
ぱん、とこめかみから上の皮膚がひしゃげる。でも止めない。ぎり、と歯を食いしばり、指に力をこめて弦を弾く。
陸に貴様らの及ぶところなどない。貴様らにあやつられてなどなるものか。貴様らなどに、貴様らなどに。
「――」
後ろから抑えこまれる。相当な力がこもっているはずだが、構わず弾き続ける。滅べ。爆ぜろ。死ね。死ね。――。恨みと憎しみと愛着と、悔しさと、形容しがたい気持ちと。
あのひとと、あのひとたちと。
腹の肉が彈け、どろりとしたものが下半身を濡らす。あのひとの手が血にまみれる。
「お願いです。あなたは、あなたの好きなことを」
あなたの求めるものを追い求めてください。僕は、行き交う無数の旅人のなかのひとり。僕の勝手な一人芝居の相方。でも、もしかなったのなら、ずっとあなたのそばにお いて――
「 」
route N.
11/18/2023, 2:21:19 PM