『刹那』
その刹那、僕は。
今日はいやに暑い日だった。
まだ4月だというのに、真夏のような暑さで僕はめっきり参っていた。
丁度今日が半日授業だった為、日差しのきつい時間に帰らなくてはならないのも気が滅入る要因であった。
学校からの帰り道、一歩一歩歩く度に汗が滴り落ちる。
「あっちー……」
額に垂れてくる汗を手の甲で拭う。
じりじりと焼けたアスファルトを踏みしめる度、靴底から火傷をしそうだ。
目前の横断歩道がひどく遠く感じる。
真新しいランドセル背負った子ども達は暑さにも負けず、元気に僕を走り抜かしていった。
あれが若さか、と幾つも離れていないはずなのに少しうらめしくなってしまう。
カロン
何かが落ちる音がして、顔をあげた。
横断歩道の真ん中に水筒が落ちていた。
落とした事に気付いた小学生が、慌てて拾いに戻る。
スピードを落とさない自動車が横断歩道へ突っ込んでくる。
すべてがスローモーションのように見えた。
「あ……」
僕は何も考えずに走り、手を伸ばしていた。
小学生の腕を掴んでひっぱる。
横断歩道から歩道へぶん投げた。
すぐ横をスピードを緩めない自動車が走り抜ける。
勢い余って、転んだ。
「あのー、大丈夫?」
荒い呼吸音と少し遠くで泣き声が聞こえた。
目の前に広がる青空が綺麗。
ドキドキと鼓動がうるさい。
青空をバックに美少女登場。
なんか見覚えがある気もする。
美少女に身体を起こされて、気付く。
自分が寝転んだままだったということに。
「あ、ハイ、どうも」
彼女に導かれ、歩道へと戻った。
その後、泣いている小学生の方へ向かう彼女を目で追う。
そっちも泣いてはいるものの、怪我もなさそうで良かった。
安堵しながら、垂れてきたモノを再度手の甲で拭う。
ぬるり
汗とは違う触感に驚いて、拭った手を見るとそこは真っ赤に塗れていて。
その刹那、僕は。
見事に気を失ったのだった。
4/28/2024, 1:20:42 PM