彼女は目映い宝石のようだった。
貧民街出身の靴磨きで生計を立てているところを、
「動きに見込みがある」
とたまたま靴を磨いた相手が騎士団長で、騎士見習いに取り立てられた。
後ろ楯も無いくせに、と嫌がらせは絶えなかった。
訓練と称して生傷が増えた。刃を潰して重いばかりの剣を握らされた。
団長はそれとなく注意してくれたが、
「たまたまお気に入りのくせに」
とますますヘイトを買うばかりだった。
一度、堪えきれなくなって、駆け込んで泣いていたバラ園で、彼女と出会った。
「貴方は騎士様なの? わたくしとそう歳も変わらなそうなのに、すごいわね!」
弾ける笑みは輝いて見えた。胸が高鳴るのをおさえられなかった。
彼女のそばにいたくて、力をつけ、礼節を身に付け、周囲を見返してやった。
その頃には俺も彼女もだいぶ分別がつく歳だったが、彼女は護衛騎士筆頭として俺を指名した。
世界が輝いて見えた。もう、どんな嫌みもやっかみも、些細な雑音にしか聞こえなかった。
幸せな時間が続けばいいのに、世界は残酷で。
隣国が我が国の富を求めて攻め込み、団長は射貫かれ、陛下の首は落ちた。
我が国の旗は焼かれ、憎々しい紅蓮の旗が王城の尖塔に翻った。
従属の証に、彼女は侵略者の妃の一人として嫁ぐことになった。
こちらからは誰一人ついてゆけない、人質としての結婚。誰もがわかっていたが、抗う力はもう俺達には残っていなかった。
彼女の隣国行きを見送ることだけは許された。
その美しさを記憶に焼きつけようと見守っていると、不意に彼女が振り返り、駆け寄ってきて。
触れるだけのキス。
「お慕いしておりました」
「わたくしも」
涙を流しながら笑う彼女は、やはり世界に唯一の宝石のように輝いていた。
お題:輝き/たつみ暁
2/17/2025, 10:55:22 AM