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深々と雪が降る。

世界よ白色の下に染まれよと
骨まで軋む寒さに包まれよと
言うが如く。

街を染める雪は止む気配がない。

─どうやら先生は、不思議の国を白く染めたいらしい。

煙草をふかしながら、雪を眺める男はそんな事をつらつらと思った。

灰色の髪に無精ひげを生やした痩躯の男だ。
髪と同色のジャケットを羽織り、青色のマフラーを巻き付けている。
男の名を眠りネズミと言った。

不思議の国において情報屋をしているが、
アリスのゲームに巻き込まれないよう国中を逃げ回っている。自称、慎重派。

今もゲームに巻き込まれないよう、いつものバーからイモ蟲横丁へと向かう最中であったが、いつの間にか音もなく降り出し、積もり始めた雪に足を止めたところだった。

街灯の明かりに照らされた広場も一面銀世界となっている。

普段は軽やかな水しぶきをあげる噴水にも雪が舞い降り、溶けずに水底に溜まっていく。

──溶けない雪とは恐れ入る。

深々と舞い降りる雪を眠りネズミは挑発的な眼差しで見やった。

──人の体温奪う雨よりも性質悪く、陽の光を浴びても尚居座り続ける。雪の美しさではなく、性質の悪さを利用して、アリスへの執着を具現化したのだろう。

眠りネズミは煙草の灰を落とすと、再び咥え、煙草を深く吸い込んだ。
肺いっぱいに苦みが広がる。

歪で、狂った住人ばかりがいるこの不思議の国は、一人の男が作っている。
たった一つの狂気をその身に宿しながら。

──度し難い。

眠りネズミは眉間にシワをよせ、
溜息をつくように煙を吐き出した。
吐き出した紫煙と共に白い息が周囲に溶けていく。

──ヒロイズムの成れの果てだ。そろそろ現実を見ろよ。イカレた先生。

男の睨みつける空からは、止むことを知らない雪が滾々と降っている。

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「Are you Alice?」より 眠りネズミ

1/7/2024, 2:35:06 PM